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【おたよりコラム】自信と安心

 4月、私は教室の席でいつもソワソワしていた。『最初に名前をいって、好きなことと好きな食べ物。みおはじめです。好きなことはサッカーです。好きな食べ物はメンチカツです。よろしくお願いします。みおはじめです。好きなことはサッカーです…』必死に頭の中で言うことを何度も何度も繰り返していた。名前順での自己紹介。『み』なので後ろの方。自己紹介がはじまると最初のうちは落ち着いていられるけれど、クラスの半分ぐらいまでくると、もう落ち着かなくなってくる。あと3人ぐらいになると、ドキドキが体も頭も支配して、足はふわふわ、頭は真っ白になる。失敗したらどうしよう。失敗したらみんなにどう思われるだろう。失敗したら人生が終わりという感覚。こうなるとろくに言うことを整理することすらできなくなる。私はそれほどまでに、人前で話すことが苦手だった。あがり症。人にどう思われるかが気になってしかたなかった。格好つけで失敗を見られるのが本当に嫌だった。

 この性格には本当に苦労した。この性格のせいでピアノの発表会で大失敗したこともあった。失敗したくない、というのは、失敗を見せたくないということにも繋がってしまい、みんながいるときに挑戦しなくなったり、失敗をうそで隠したり、失敗しないためにずるをしたり、よくない方にあがり症と格好つけが一緒になってしまっていた。『できる』と自信があるときには、どんどん手をあげ、アピールするけれど、不安があると、目も合わせなくなる。そのときの私は全くバレていないと思っていたけれど、きっと態度や表情でバレバレだっただろうなと今になって思う。

 この人前で失敗したくないという気持ちからでてくるあがり症はなんとかしたいと思いながらもなかなか克服することができなかった。克服するきっかけになったのは高校1年生で生徒会の体育祭実行委員長に立候補したこと。中高一貫校だった私は全校生徒1400人ぐらいの前で選挙演説をするなど、大勢の前で話す機会が多くなったことで、完璧を求めている人はいないし、失敗したところでだれも気にしていないと思えるようになったことがとても大きかったと思っている。荒療治ではあったけれど、やってみたことで『完璧な自分でなければいけない』という呪いから解き放たれたように思う。

 それでも今もまだひょっこりあがり症が顔をだすことがある。結局あがり症は私の特徴のひとつで、完璧に克服することは難しいのだと思う。でも長く付き合ってきてわかったことがある。このあがり症には乗り越え方が2つある。ひとつはやり切った!!と言えるほどに事前の努力をすること。そしてもうひとつはどんどんチャレンジして失敗を繰り返すこと。1つ目の事前の努力は、こんなにもやってきたから大丈夫!という自信からくるもの。こんなあがり症の私だったけれど、サッカーの試合でどんな強い相手とあたる時でも緊張することがなかったのはまさに自信があったからだと思う。2つ目は失敗しても意外と大丈夫だと気づいていくことで、少しずつ少しずつ大丈夫な範囲を広げていくこと。ちょっとできないことにたくさん挑戦してみたり、たくさん勝ち負けのあることをやり、失敗し、負けたりすることで、失敗しても思ったほどのつらさや恥ずかしさはないや、大丈夫かもと失敗することへの不安を減らしていくことがとても大切なことだと思う。

 新しい学年がはじまり、環境が変わることも多いこの4月。教室では、こどもたちに「私はこれは自信がある!」そう思えるなにかをみつけるきっかけを与えたり、安心して失敗できる場をたくさん用意してあげられたらと考えています。勉強面の成長はもちろんだけれども、なによりもひとりひとりの素敵なところがより輝くように、たくさんのよさを引き出せるように、そしてただの習い事のひとつではなく、安心できる居場所になれるよう、全力で子どもたちと向き合っていきたいと思っています。2025年度もどうぞよろしくお願いします。

三尾 新

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